リアル肉食系女子! 「狩りガール」狩猟の現場報告(1)

ライフ 食・暮らし

  • ブックマーク

Advertisement

“森ガール”、“山ガール”に続いて、にわかにブームになりつつあるのが、リアル肉食系女子とも言うべき“狩りガール”だという。2014年初めにデビューしたばかりの新米“狩りガール”、ありさん(33)が猟銃を携え、果敢に挑んだ緊迫の狩猟現場を自ら報告する。

 ***

“なぜ、狩りガールに?”という質問には、食べるという行為の根源を探ってみたかったから、という答えくらいしか見つかっていない。それでも、猟銃を抱え、奥深い山に足を踏み入れるようになって、この冬、2度目のシーズンを迎えた。

 狩猟期間は、北海道の場合、9月半ばから翌年の2月いっぱい、他の地域は10月半ばから翌年の3月半ばまでと決められている。

 12月14日朝4時、その日の“狩り場”となる東京・檜原(ひのはら)村の天気予報を確認する。晴れのち曇り、降水確率は20%、まずまずの狩り日和だ。

 前日は、獲物がシャンプーの匂いに感づくことのないように髪を洗うことも控えた。

 眠い目をこすりながら、愛用する猟銃や昼食用のおにぎりなどを持ち、電車に揺られて、集合場所のJR武蔵五日市駅に朝7時に到着。ちょっと遅れて、狩猟免許取得の講習会で知り合った、狩りガール仲間のまりちゃんも着いた。

 私たち2人は、檜原村の猟友会『檜原大物クラブ』所属の地元猟師と一緒に、“巻き狩り”に挑戦することになっていた。“巻き狩り”とは、獲物を猟犬で追い立て、まわりを取り囲んだ猟師が銃で仕留めるというもの。

 駅からクルマで20分足らずの狩猟小屋で、作戦会議が開かれる。事前に、地元猟師が、足跡やフンの状態から獲物の行動範囲を調べた、“見切り”の結果を持ち寄るのだ。

 そのうえで、クラブの隊長が、私とまりちゃんを含む8人の銃を撃つ射手と、猟犬を放つ勢子(せこ)と呼ばれる担当の配置を決めた。

 秋川渓谷沿いの“狩り場”に射手は散らばっていき、私の受け持つ場所は獣道を上から覗く斜面だった。

 まりちゃんは、私から100メートルくらい離れた同じような斜面に陣取った。

 地元猟師が、

「ここ、筋(獣道)がいくつも通っているから出るよ」

 と声を掛けてきた。

 広い視野が確保でき、反対に獲物からは見えないような太い木の幹の裏に隠れ、銃を撃ったときの反動に備えて足場を固めた。

 葉擦れと鳥の鳴き声しか聞こえてこない。

 9時15分、

「始めるよ」

 という隊長の声が無線機から流れてきた。

 それと同時に、3頭の猟犬が放たれ、「ワンワンワンワンワン」という咆哮が響き渡った。

 以前、ベテランの猟師から、“山に入ったら木となれ、岩となれ”と言われたけど、その日の気温はわずかに5度。猟銃を持つ手も悴(かじか)んでくる。

 9時25分、早くも無線に、

「出たぞ!」

 という声が入った。

 続けて、

「牡鹿だ」

「上(かみ)に行った」

「いや、今度は下(しも)だ」

 と、興奮した声が飛び交う。

 固唾を呑んで、無線に耳を澄ましていると、突然、パーン、パーンと2発の銃声が轟いた。

 仕留めたのか? いや、猟犬の吠える声は収まっていない。となれば、銃弾は外れたに違いなかった。

 次第に、猟犬の吠える声が、私の方に近づいてくる。首輪の鈴の音まで耳に届くようになった。

「ありちゃんの方に行ったぞ」

 私の心臓は高鳴った。

“木となれ、岩となれ”、自分自身にそう言いきかせていると、再び、パーンという轟音が響いた。木魂(こだま)する銃声は段々と小さくなり、一瞬の静寂が周囲を支配した。

 無線から、

「獲ったか?」

 という隊長の声がした。

「あったりめえよ」

 射撃の腕前がクラブ内でピカイチの、センセイと呼ばれるベテラン猟師が答えた。すぐさま仕留めた場所まで駆け寄っていくと、獲物は体長160センチ、体重70キロくらいのホンシュウジカだった。立派な角を持つ、4歳くらいの牡。しかも、さすがはセンセイ、心臓を一発で撃ち抜いていた。

 隊長によると、30分余りで狩りが終了するのは、これまでの最短記録とのこと。私はたいして貢献できなかったが、“巻き狩り”はチームプレーでもあるので獲物を仕留めた喜びは分かち合えた。

 ***

 次回『「狩りガール」狩猟の現場報告(2)』ではありさんが猟に興味を持ったきっかけ、はじめての猟について語る。

週刊新潮 2015年1月1・8日新年特大号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。