「今月はあんただけ。先の予約もないね」無人島で1泊2日 宿泊したら自慢できる「日本の変な宿」紀行(7)

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 日本には“おもてなし”精神溢れる宿がごまんとある。そんななか明明白白たる優雅な宿に背を向け、泊まった後他人に絶対自慢したくなる、唯一無二の体験ができる“変な宿”を見つける旅に出た本誌記者。

 熊本県天草市には、屋根つき宿泊施設が完備された無人島があるという。

 天草諸島の漁村から専用の渡し船で「産島(うぶしま)キャンプ場」へと向かった。不知火海に浮かぶ周囲5キロの産島は、神功皇后が産気づいたとされる伝説の地。島の神社は安産を願う女性たちのパワースポットで、夏は海水浴客でも混むそうだが、

「10月の泊り客は1組、11月がゼロ。12月もあんただけ。先の予約もないね」

 淡々と呟く渡しの船頭、上口司郎さんが続ける。

「電気とガスはないけど水道やシャワーはある。といっても、太陽熱で温める仕組みだから、冬場や雨の日は水しか出ない。あと、島には猪と狸がいるから、夜は出歩かない方がいいよ」

「産島キャンプ場」(熊本県天草市)。
1泊素泊まり5000円
TEL:0969-78-0670

 20畳ほどのバンガローは、小さな平屋の家屋といった趣だが、床に蛾の死体、戸棚を開ければゴキブリの糞……。寝袋にくるまって早めに寝たが、やっぱり夏に大勢で来る場所。1人で来る場所ではなかったかも。

 幸い猪のエサとならずに朝を迎えられたので、別府や湯布院と並ぶ人気を誇る黒川温泉で自分を癒すことにした。

■日本一深い“立ち湯”

 「旅館こうの湯」(熊本県南小国町)は9軒の離れが自慢の上等な宿で、一見、“変”なところも見受けられない。昨夜はシャワーも浴びていないので、サッパリしたい一心で温泉に向かうと、支配人の松崎大輔さんに案内された。

「名物“立ち湯”に入ってみてください。女湯136センチ、男湯162センチ。日本一深いと自負しています」

 溺れてしまうかも、と思いながら意を決して石造りの浴槽に足を入れると、中は階段状で、だんだん深くなる。身長173センチの記者でも爪先立ちでないと、口にどんどんお湯が入る。足指が痺れてくるので、ぴょんぴょん跳ねてやり過ごす始末。浴槽の上にかけられた丸太が“命綱”代わりだ。

「旅館こうの湯」(熊本県南小国町)。
1泊2食付3万2550円~
TEL:0967-48-8700

「うちの社長は変わった風呂が好きでして。今まで立ち湯に関して苦情はありませんが、あってもおかしくないと思いますねぇ」(同)

 泉質は単純性弱アルカリ性。神経痛や筋肉痛に効くというが――。温泉も必ずしも疲れを癒すばかりではない、と実感した変な宿のフィナーレであった。

「特集 宿泊したら自慢できる『日本の変な宿』紀行」より

週刊新潮 2015年1月1・8日新年特大号掲載

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