まるで解体現場!?「ここに泊まるのか…」 宿泊したら自慢できる「日本の変な宿」紀行(1)

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 旅は憂(う)いもの辛いもの、と言われたのも今は昔。今日では津々浦々まで快適な宿に事欠かず、旅先で「憂い」思いをすることもない。だが、豪華な食事、癒しの温泉という月並みな“おもてなし”を享受するだけでは、旅は味気ない。

 そんな思いを抱き、記者は探訪の旅に出た。唯一無二の体験ができる“変な宿”を見つけるのが目的である。12月とは思えぬ寒波に見舞われている折、どうせなら寒いところから始めようではないか。

 そこで、まずは日本で唯一、氷と雪でできた建物に滞在できる施設へ。北海道当別町の「ロイズアイスヒルズホテルin当別」は、寒い日は室温が零下10度前後に下がる。しかもテレビも家具もなく、あるのはフレームが氷でできたダブルベッドのみ。広報担当の小林正典氏が言う。

「姉妹都市のスウェーデンのレクサンド市に氷と雪でできたアイスホテルがある。それをモチーフに、わが町の新たな風物詩になるようにと、昨冬始めました」

 だが、自然が相手の建設作業は予定通り進まないそうで、訪ねたときは骨組みに雪をかけて固定する作業の真っ只中。オープンは1月17日頃で、3月15日までの営業だという。残念!

■「本当にここに泊まるのか……」

 とはいえ、体の芯まで冷えずに済んでホッとしたのも事実。癒しの温泉へいざ行かん、と向かったのは東北新幹線の那須塩原駅から車で約40分の「老松温泉喜楽旅館」(栃木県那須町)だ。

 が、タクシーに行き先を告げても「知らないなあ」。しばらくして強烈な硫黄臭とともに目に飛び込んできたのは、解体現場と見まがう荒廃した建物だった。屋根も壁も崩れ、布団や消火器が散乱する室内が丸見えではないか。茫然と立ち尽くしていると、「受付はこっちだよ」と声をかけられた。主人の星田晴久さんだ。本当にここに泊まるのか……。

「老松温泉 喜楽旅館」(栃木県那須町)。
1泊2食付7500円
TEL:028-776-2235

「父が戦後すぐにこの旅館を始めたのですが、1970年代から崩壊が始まりました。台風に加え、温泉の質が強烈過ぎるからではないかと。この場所は銀や銅などの金属が腐食しやすい。テレビは3カ月に一度、壊れてしまうし、電気釜も1年で交換です。パソコンなどの機械類は、使わない時はビニール袋に入れておかないといけない。建物は直すお金がないので、そのままにしているんです」

 かくして、12室あった客室のうち、今も使えるのは6室だけ。へこみだらけの廊下など、足裏で木の薄さを体感できる心許なさ。壁も、お化け屋敷だってここまでは加工できまい、というほどただれている。泊まった客室では、携帯電話の充電器をコンセントに差し込んでも反応はない。硫黄とはまた違う妙な臭いがする浴衣も、着るのを躊躇してしまった。

 それでもご主人曰く、

「ここの温泉は、人間だけにやさしいんです」

 お風呂は肌にいいと評判で、アトピーや水虫などに効果抜群。源泉を飲むと血糖値も下がるとか。通い客の「やめないで」の声に支えられ、85歳になる従姉の狸塚美智子さんと2人で宿を続けているんだそうだ。

「特集 宿泊したら自慢できる『日本の変な宿』紀行」より

週刊新潮 2015年1月1・8日新年特大号掲載

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