2014年ミステリ読みのプロが選んだベスト1 『満願』ってどんな本?

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 毎年この時期になると楽しみなのが、各社のミステリー年間ランキング。まず最初に「ミステリが読みたい!」(早川書房 「ハヤカワミステリマガジン」2015年1月号掲載)のランキングが発表されました。この1年間に刊行されたミステリのなかから、信頼できるミステリ読みのプロフェッショナルが選ぶこのランキング。1位に輝いたのは『満願』(米澤穂信/著 新潮社刊)でした。2位以下に大差をつけての高い評価を受けました。

■青春ミステリの旗手が描いた、緊張感溢れる6つの短編

 作者の米澤穂信さんは、2001年青春ミステリ『氷菓』でデビュー。若者の日常とミステリを組み合わせた『〈古典部〉シリーズ』で高い人気を得ました。端正な文体で「日常の謎」を描くその手法は若者の間で評判となり、『〈古典部〉シリーズ』はアニメ化・漫画化もされ大ヒット。その後『ボトルネック』や『リカーシブル』などのほろ苦い青春ミステリから、『追想五断章』『儚い羊たちの祝宴』などの緻密でぞっとするほど甘美な作品まで、確かな筆力と堅実な作風でミステリ界に礎を築いてきました。

『満願』は6つの作品からなる短編集。それぞれが独立した短編で、殺人の刑期を終えた女、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、フリーライターなど、切実に生きる人々が遭遇する6つの奇妙な事件が描かれています。どの作品も入念に磨き上げられた流麗な文章で、精緻に作り込まれた謎が語られます。登場人物の心の奥底に潜む様々な思いを表す些細な行動、風景を綴る細かな描写、文章を彩る全てに意味がある緊張感溢れる短編集となっています。

■山本周五郎賞受賞、直木賞候補にも

『満願』は2014年各所で話題になりました。第27回山本周五郎賞を受賞。第151回直木賞候補にも挙げられました。山本周五郎賞の選考委員は『満願』を評してこう語ります。

石田衣良
「長編小説3、4冊分のアイデアを、連作でなく全部世界が違う短編に詰め込んだ。確かな力を感じた」

佐々木譲
「これだけ違った世界を、それぞれ完全に自家薬籠中のものとして描き分ける力量に脱帽だ。本作の受賞がうれしい」

 受賞を逃した直木賞の選評でも、宮部みゆきさんが「このハイレベルな短編の連打に魅せられました」と同作を評価していました。

 2014年ミステリ界の枠を超え、エンターテインメント作品のなかでもベスト1とも呼び声の高い同作品。人間の深奥に潜む闇にぞっとしながらも深く心動かされる一時となるでしょう。晩秋の夜長にお勧めの一冊です。

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『満願』収録作品

夜警
交番勤務の警察官が主人公。交番に訪れたありふれたDV被害者。包丁を持って暴れる夫と対峙し、発砲するも殉職した同僚の警察官。その事実の裏に潜む心の闇とは?

柘榴
美しい母、母親に勝るとも劣らない二人の美しい娘、女たらしの父親。離婚協議が進むなか、娘二人のとった驚きの行動。美しく残酷な性(さが)が導いた結末とは。

万灯
東南アジアで資源開発に挑む在外ビジネスマン。命がけの交渉を進める中、一線を越えてしまうことになる。必然的に犯してしまった二つの罪。彼に審判は下るのか?

満願
殺人の罪を認め服役を終えた下宿屋の内儀。人柄を知る元下宿人の弁護士は内儀の行動に疑問を抱く。下された判決に抗おうとせず、刑期を勤め上げた女の本当の願いとは。

他二編を収録。

デイリー新潮編集部

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