少子高齢化が生んだ新しい社会問題/『ルポ 介護独身』

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 自分の父親が倒れた時、私はバツイチの独身だった。突然やってきた介護という現実に、稼ぎの少ないフリーライターだった私は残りの人生を半ば諦め、親の介護に捧げる決断をした。仕事や第二の人生は親を看取ったその後に考えよう。そう決意した理由は、独り者の自分にしかそれができる者はいないと悟ったからだ。今は環境が変わり、高齢の母にその役割を押しつけてしまっているが、本書で描かれている「介護独身」者たちと同じ境遇だった当時は、それが逃れられない必然のことだと思っていた。

 それでも当時の私には介護のつらさを分かち合える母がいたからいいが、多くの独身介護者はそれをたった一人で背負わなくてはならない。出会いもなくなり、結婚はますます遠のく。本書によると、仕事を続けることが困難になり、介護している親の年金で暮らしている独身介護者も多いという。孤独な介護の日が終わる時は確実に訪れるが、それがいつになるかは全くわからない。その未来の見えない辛さがどれだけのものかは、介護疲れで親を殺してしまう事件が頻発している現実が答えとなるのだろう。

 非婚化・少子化で生涯未婚率が急速に高まっている。超高齢化で介護を必要とする高齢者が急増している。この両者が合わさって生まれた「新しい社会問題」が介護独身だ。本書が出色なのは、豊富な事例を紹介することで、この目に見えにくい新たな社会問題に光を当てている点だろう。

 近年になって介護政策は「在宅化」にシフトチェンジされているが、それによって独身介護者の孤立化がさらに進むと思うと、本書で描かれる現実には希望が少なく、陰鬱な気持ちになる。だが著者は、ひとつの「希望」として「事実婚」を挙げ、孤立しない介護を模索すべきと提言している。そんなちっぽけな救いを「希望」と言うしかないほど、今の介護政策が遅れていることを知ってほしいと痛切に思う。

[評者]鈴木裕也(ライター)

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