耳の戦車! イチゴスケキヨ! お尻に笛! 奇想すぎて誰もが絶句 ヒエロニムス・ボスの世界

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 中年以上の人たちに「ボスを知っている?」と聞くと、たいがい首をかしげる。「じゃあ、ボッシュは? ボッスは?」と聞くと、知っているという答えが返ってくる。若者はそもそもこの画家自体を知らないことが少なくないのだが、美大出身者に聞いてみたところ「ボス」で認識、「ボッシュ(ボッス)」ではわからない。

 かつてはボッシュ、ボッスと表記されていたものの、現在、専門家の多くが画家の出身地であるオランダの発音に近い「ボス」を採用しているため、学んだ時期により呼び方が異なっているようだ。

■貴重すぎて日本では観られない

 呼び方すら曖昧な、気の毒な画家ヒエロニムス・ボス。認知度が低い理由のひとつに、日本では作品を観る機会に恵まれないことがあるだろう。というのも近年の研究から真筆と確実視されているのは、わずか20点のみ。その貴重さゆえに一度の来日さえままならないのだ。

「芸術新潮 9月号」永久保存版特集「中世の大画家 ヒエロニムス・ボスの奇想天国」より

 生涯もはっきりしない。本人の日記や手紙が一切現存せず、教会の記録など周辺に残されたわずかな手がかりから探るしかないためだ。おそらく生まれは1450年頃。ネーデルラントのスヘルトーヘンボス(現オランダの都市)で画家の家系に生まれ、父や叔父などから手ほどきを受けたと考えられる。流行した疫病により、1516年没。

 ちなみに同時期に活躍した画家のひとりはレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519年)。レオナルドも奇才だったが、奇想という点ではボスに軍配を上げたい。

■魔物、怪物――愉快なキャラがいっぱい

 敬虔なキリスト教信徒であったボスは、祭壇画を多く手がけている。本来であれば聖母やキリストを中心に描くべき対象である。ところがボスとなると、組み体操で怪物の真似(?)をする人々、股間にイチゴを載せたスケキヨ、お尻に笛を刺した人、耳とナイフできた戦車、豚のシスターに迫られる男など、隅々まで空想上の生き物の姿があるため、じっと目を凝らしたくなる愉快さだ。しかも純粋にかわいい、キモかわいい、笑える、などキャラクター性に富んだ生き物ばかりで、現存作品数の割にミュージアム・グッズが多いのも理解できる。

「芸術新潮 9月号」永久保存版特集「中世の大画家 ヒエロニムス・ボスの奇想天国」よりり

 もっとも今でこそ愛らしく感じられるが、伝統的表現が重んじられていた当時はどうだったろうか。魔物や怪物を描くなんて異端だったのでは、と唱えた研究者もいる。だがボスは異端ではなかったし、奇妙な生き物を描くことを目的にしたわけでもなかった。ボスが描いたのは人間の愚行、そしてそれにより人々の贖罪意識を高めようとしたのである。

 日本では作品を観られないと書いたが、原寸大の複製なら徳島の大塚国際美術館にある。ボスの代表作《快楽の園》で、祭壇画の扉が自動で開閉する仕掛けになっているあたりは、本物では味わえない斬新さだ。

デイリー新潮編集部

芸術新潮 2014年9月号掲載

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