「科学の眼」で世界を見る/『科学の罠 美と快楽と誘惑』

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 科学は一〇〇%ではない。相対性理論だって九九・九%正しいとしか言いようがない。常に反証される可能性があるのが科学だからだ。そんな「科学とは何か、科学の考え方とはどういうものか」をわかりやすく解説したのが本書である。読み進めると、誰もがあの“STAP細胞騒動”を思い浮かべてしまうだろう。

 科学は「HOW」と「WHY」で問われる疑問に答えるもので、「WHAT」に答えるものではないと著者は言う。つまり、定義によって変わりうる「それは何か」は科学の扱うものではないのである。「STAP細胞はありまーす!」という言葉ばかりが目立ったが、あの会見で本来語られるべきは「STAP現象はいかにして起きるのか」や、「なぜSTAP現象が起きるのか」であり、STAP細胞の存在ではなかった。

 なぜなら、科学では、存在は証明できても不在は証明できない。科学的であればあるほど不在は証明できないと本書は言う。誰が見ても日本に野生のパンダがいないことはわかっているが、「もしかしたら、地下百メートルにいるかもしれない」など可能性は無限にあり、それを一〇〇%否定するのは不可能だからだ。不在を証明できない心霊現象が科学的ではないとされるのと同様、「STAP細胞はありまーす!」は、科学的には絶対に否定することができないことになる。それを知った上の発言だったとしたら、相当したたかだ。

 本書の後半では、科学的検証の方法や、観測に必ず付きまとう誤差をどう考えるかについて、相対性理論などの検証過程を紹介しつつ科学の立場で解説している。さらに最終章では、実験結果の捏造などが起きてしまう理由について触れている。STAP細胞についてはひと言も書かれていないが、あの騒動の問題点のあらかたが解説されていることになる。STAP細胞騒動とは科学の考え方の問題だったのだということを知るにはうってつけの本であろう。

[評者]鈴木裕也(ライター)

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