[映像流用]あなたの映像が無断流用? オムロンが流用していたデータは何に使われたのか?

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 大手電子機器メーカーのオムロン(京都市下京区)がJR東日本に委託され、乗降客の流動調査のためJR4駅で撮影した乗降客の映像を、JR東に無断で自社の防犯カメラのシステム開発に流用していたことがわかった。 いわゆる「個人情報」の扱いに誰もが神経をとがらせる中、鉄道各社が利用する自動改札機で大きなシェアを誇る同社による、立場を悪用したデータの目的外使用に批判が集まっている。また総務省が補助金を支出した事業に流用していたことも問題視されている。

 一般の利用者にしてみれば自分たちの映像が無断で撮影され、よくわからない研究に利用されているというのは、なんだか気味が悪い。そのような印象を受けるのではないだろうか。

■映像は何に使われていたのか?

 今回無断で流用されたデータは、いったいどのような研究に使われていたのだろう? オムロンの子会社オムロンソーシアルソリューションズ(東京都港区)の防犯カメラシステム「ssVision」の説明をみると、「映像監視業務の負担を軽減」「カメラ運用がスマートに変わる」「人物登録」「照合通知」などとあるがいまいち要領を得ない。

 警視庁の最先端科学捜査について解説した『警視庁科学捜査最前線』(新潮新書)によると、最新の防犯カメラには「インテリジェントソフト」と呼ばれる機能が入っているという。

 そのひとつが「モーションサーチ」である。映っている人物の急激な動きや不規則な動きの繰り返しなどを「異常行動」と判断する機能だ。例えば駅で運用される場合、改札の不正通過やけんか、うろつき・徘徊(はいかい)、しゃがみ込み、ごみ箱あさり、 などの行動が防犯カメラにとらえられると、監視モニターに警告が送られる。多数のカメラから送られてくる映像のなかから、今見るべきシーンをお知らせしてくれるというわけだ。

 他にも温度の急激な変化(事故・火災)を検知する、無人であるはずの場所で「動体」が映った場合に反応する、物の置き忘れ(爆発物などを置いてゆく)を検知する、などテロ対策に有用な機能も兼ね備えている。

 さらには撮影した画像データからその人物の身長や服装をデータベース化して、特定の人物を検索する機能や、あらかじめインプットしておいた顔データと照合して、特定の人物が現れたときに通知することもできる。オムロンの「ssVision」では3000人の顔データが登録でき、1分間に30人の顔を照合することが可能だという。

 これらの機能の一部はすでに「高性能街頭防犯カメラ」として実際に運用されている。従来の「見るだけ」の監視カメラを超えて、より能動的に選択し、分析する「頭脳」としての監視カメラ。このような機能の研究開発に乗降客の映像が無断で使われていたのである。

 なお同社のssVisionを紹介したウェブページは現在非公開となっている。

■ビッグデータ分析時代の到来

 防犯カメラの映像が事件解決の端緒を開く事例も増えてきた。『警視庁科学捜査最前線』には「パソコン遠隔操作ウイルス事件」や「漫画『黒子のバスケ』脅迫事件」「目黒強盗殺人」「立川六億円強奪事件」などでどのように防犯カメラの映像が役立ったのか、が詳細に語られている。また防犯カメラ映像に限らず、警視庁に蓄積された指掌紋や犯罪の手口情報、Nシステムで読み取った車両のナンバープレート情報などの「ビッグデータ」が今後も犯罪捜査・抑止に活用される場面が増えてゆく、と述べられている。

 今回の無断流用は、一私企業によるルールを逸脱した私的な悪用と捉えられてしまっても仕方がない。しかし一般市民にとって防犯カメラの高性能化、設置数の増加は有益であることもまた事実である。それだけに撮影画像の運用は、プライバシーに配慮し、一般市民の権利を不当に侵害しないよう慎重を期してもらわなければならない。ビッグデータを扱うものはビッグブラザーにならないよう、高い倫理感とコンプライアンス意識が求められる。

デイリー新潮編集部

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