東京オリンピックが尖閣防衛の盾になる 国際政治の専門家が解説する五輪開催の影響

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 昨年末ロシア南部のボルゴグラードで2件の連続テロが起きた。走行中のトロリーバスと鉄道の駅が狙われ、合わせて30人以上が死亡。昨秋から続く無差別テロはソチ五輪妨害を狙うイスラム過激派の犯行だと見られている。ソチ五輪をなんとしてでも成功させたいプーチン大統領の喉元に匕首を突きつけた形となった。

 最近、米国、ドイツ、フランスなど欧米首脳が相次いでソチ五輪開会式への出席を見合わせると表明が相次いだのは、こうした安全面の不安に加えロシア国内の人権問題の影響があると言われている。日本では大きく報じられてはいないが、同性愛禁止法の施行などの人権政策に欧米諸国は大変な不快感を示し、その抗議としての欠席である。

 これらの出来事は決して他人事ではない。2020年に開催が決まった東京オリンピックを抱える日本でも同種の問題が持ち上がる可能性が極めて高い。中韓との軋轢や安倍総理の靖国参拝に米国が不快感を示した事例など、枚挙に暇がない。

 オリンピックは、国際政治の構造にどのような影響を与えているのか。

 作家・外交ジャーナリストの手嶋龍一氏と元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏、二人の“インテリジェンス”の専門家がこの度上梓した『知の武装―救国のインテリジェンス―』(新潮新書)のなかで、五輪の影響の大きさについて語っている。

■東京オリンピックは3度目だった

佐藤「東京オリンピックは今回も含め3度決まっているんです。一度目は昭和15年、1940年に決まっていたのですが、日中戦争等の影響を考慮して1938年に日本政府が中止を決定し、東京の代わりにヘルシンキ(フィンランド)で行われることになったのです。結局これも、1939年の第二次世界大戦勃発で中止になった。そういう意味では、2020年の東京オリンピック開催まで、東アジアの平和を何としても守らなければ、再び東京オリンピックは幻になってしまう怖れがあります。 」

 佐藤氏はオリンピックが決まったことで、中国・韓国とこれ以上関係を悪化させることができなくなったと語り、国際的にも外交的にも重要な変化が起こったと読み解く。もっとも、この変化でダメージを受けるのはむしろ中国の方だという見方もできそうだ。

■尖閣防衛の盾、東京オリンピック

手嶋「東京オリンピックの開催は、たとえてみれば、尖閣諸島に国連の環境関連機関が設立されたようなものと言っていいでしょう。もし中国が本気で奪取しようと軍事攻勢でも仕掛けようものなら、平和の祭典をぶち壊した張本人として国際社会の厳しい批判にさらされることは間違いありません。中国を平和の祭典に引きずり込む戦略を推し進めるべきなのです。 」

 つまり、手嶋氏はオリンピックは尖閣問題の盾になったと指摘。中国、そして竹島問題を抱える韓国もまた「オリンピックの人質」に取られたというわけだ。

 同書ではプーチン大統領が東京オリンピック開催を支持した意味や、シリア問題がロシア・アメリカ・日本、そして五輪開催に与えた影響などの裏側も語られている。オリンピックを経済的な側面や公共投資の観点だけではなく、国際政治・外交の側面から語る二人の言葉には、日本人が知らない世界の「深層」が詰まっているようだ。

デイリー新潮編集部

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