武井壮は鼻垂れ小僧! 自分史を刻む、マスターズ陸上の加齢なる世界

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 世界マスターズ陸上選手権で「百獣の王」こと武井壮さんが200メートル走で銅メダルを獲得し話題となっている。ところがそんな武井さんを「鼻垂れ小僧」だと笑う世界が「日本マスターズ陸上」だ。武井さんが出場したのは男子の40~44歳のクラス「M40」。こちとら「M100+」つまり100歳を超えた“男子”も参加する世界である。

 ノンフィクション作家の高橋秀実さんが、『新潮75 どうする超高齢化社会』で「命を賭して」走り続ける人を追った。

■人生のマスターズによる「生き残りレース」

 マスターズ陸上の世界は奥深い。武井さんの肩書きが「十種競技の元日本チャンピオン」ならば、「M85」100m走に出場する選手は「特攻隊の生き残り」。「W70」(女子70~74歳)100メートル走で優勝の本間さんは「まるまる専業主婦」。「M90」1500メートル走に出場するのは「旧制中学の駅伝選手」だ。

「M85」の「特攻隊の生き残り」だという選手はこう語る。

「毎年毎年、みんないなくなっちゃうんだから。一緒に走って一緒に練習してた人も去年、脳梗塞で倒れたし、『お前に負けてなるものか』と一生懸命練習してた仲間も、この前、骨折りましたしね。調子よりなにより、長続きするかどうかなんですよ」

 彼は陸上のレースというより、生き残りレースの中にいるようである。

■真のオリンピック

 日本マスターズ陸上競技連合会長の鴻池清司さん(76歳)が解説する。

「マスターズ陸上の精神ってご存知ですか? 『40、50は鼻垂れ小僧、60、70花盛り、80まだまだ、90でお迎えきたら100まで待てと追い返せ』」

 そういう世界なのだ。

 彼はマスターズ陸上こそ真のオリンピックだという。オリンピック精神は「参加することに意義がある」だが、実際のオリンピックは勝敗にこだわっている。マスターズ陸上は元気に生きていないと参加できないわけで、参加すること自体に意義をもてるのである。

■自分史を刻む

 競技会では記録を「出す」のではなく、記録が「出る」。ここに来れば、記録が残せる。日本記録であろうとなかろうと、数字とともに本人が記録されるのである。
 マスターズ陸上は一種の「自分史」なのかもしれない。毎年記録を刻む。刻むことで人生の道のりが見えてくる。いうなれば生きた足跡なのだろう。

 確かに武井壮さんもこの世界ではまだまだ鼻垂れ小僧のようだ。武井さん、マスターズ陸上の「M100+」に出場して「百歳の王」になってくださいね。

デイリー新潮編集部

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