10人の犯罪者のうち、捕まるのは1人だけ?

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警察発表の検挙率は3割
 日本で、警察によって犯罪が解決される割合をご存じだろうか。警察庁発表の資料によると、平成24年の検挙率は31.7%。これを高いと見るか、低いとみるかは人それぞれだが、犯罪者の三分の二が捕まっていないと考えると、おちおち道も歩けない気もする。

 しかし、この数字は、そもそも事実を反映したものではないのだという。犯罪社会学が専門の立正大学教授・小宮信夫氏によれば、検挙率とは、あくまでも「警察が知ることができて処理した犯罪」の件数をもとにしたものにすぎないからだ。

「犯罪が発生しても、それを警察が見つけられなかったり、被害者や目撃者が警察に連絡しなかったりすれば、その犯罪は統計には載らない」のである(近著『犯罪は予測できる』より)。

統計に現れるのは氷山の一角
 法務省発表の「犯罪白書」によると、自動車盗の届出率は56.3%で、不法侵入は47.9%と半数程度が被害を申告しているが、窃盗になると34.8%に減り、性的事件に至っては18.5%にとどまっている。

 理不尽なことだが、被害にあったことが言い出しにくい種類の犯罪もある。あるいは、報復が恐ろしい、警察を信用できないなど、さまざまな理由で届け出ないこともある。実際には、泣き寝入りをしている犯罪被害者が、警察が把握している数の何倍もいるというわけだ。

 さらには、被害者のいない犯罪もある。麻薬取引や売春など、合意の上で行われている犯罪だ。こうした犯罪の多くは、統計には載らない。

異状死16万件のうち解剖されるのは1割
 実際の発生件数より少なく見積もられているのは、殺人のような重大事件に関しても同じである。殺人事件であるにもかかわらず、事件性のない病死や事故死、あるいは自殺、行方不明などとして扱われてしまうケースがあるからだ。

 2009年、明らかに病死であることが確認できないために警察が取り扱った「異状死体」は、なんと16万体もあった。しかし、そのうち検視のために解剖されたのはたったの1割にすぎない。

 そのために、なんと毎年1000件以上の殺人事件が見過ごされているという試算もあるという。

実際の検挙率は1割にも満たない
 さきの小宮氏によれば、法務省のアンケート調査をもとに大ざっぱに計算すると、2011年の犯罪発生件数は、犯罪認知件数の5倍に上り、実際の検挙率は1割にも満たないことになる、という。

「実際には、全体の9割以上の犯罪がだれによるものなのか分からない。データのとり方、まとめ方、見せ方の問題など、犯罪統計の『常識』について疑うべき点を挙げればきりがない」

 そして最大の問題は、「統計を眺めているだけでは犯罪被害の本当の大きさが見えてこない」ことである。
 犯罪被害の本質は、数で表せるものではない。犯罪とは、ひとりひとりの被害者の、そしてその家族の、あるいは加害者と家族の一生をも変えてしまう悲劇だからだ。

悲劇の記録ではなく、予防を
 全国の小学校で実践されている「地域安全マップ」の考案者として、犯罪予防に取り組む小宮氏は、こう語る。

「今の日本は、起こった悲劇には関心を持つものの、悲劇の『予防』にはあまりにも無関心ではないだろうか。犯罪統計も悲劇の記録にすぎない。なぜ、統計の解釈に費やすエネルギーを『予防』に向けようとしないのか」

 根拠のあいまいなデータに惑わされて「日本の治安は悪くなった」と嘆く前に、やるべきことはたくさんありそうだ。

デイリー新潮編集部

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