意識を作り出すのは皮膚?/『皮膚感覚と人間のこころ』

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 さまざまな「思い込み」を覆してくれる一冊である。
 多くの人は、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感のうちで皮膚が担うのは触覚だと思っているはずだ。ところが本書は、「皮膚には視覚・聴覚はもとより、電磁波まで感知し、それらの情報処理も行う機能がある」と最新の研究成果を紹介する。さらには、ストレスホルモンや愛情ホルモンであるオキシトシンも皮膚で合成・放出されているとも。これらは、主に脳が担っているとされる機能である。
 となると、大きな問題が生じる。「心はどこにあるのか?」という問題である。「心は脳にあるらしい」が、最有力の説であることを疑う人は少ないだろう。しかし、本書によれば、「意識を作り出しているのは脳だけではない。皮膚にも情報処理機能があり、意識を生み出している」ということになる。その意味でも本書は、多くの人にとって“目からウロコ”であるに違いない。
「人類と他の動物を分けるのは言語の使用である」も思い込みかもしれない。そもそも人類の祖先が誕生した時点では言語を獲得していなかったのだ。現生人類が誕生するまでの一〇〇万年もの期間、ウロコや体毛を脱いだ“裸のサル”はスキンシップでコミュニケーションしていたという説には説得力がある。「言語を獲得し、さらには文字を発明して、私たちは皮膚感覚の存在を忘れてしまっている」との一文は、養老孟司氏の「都市化して脳化社会となり、本能が失われた」という唯脳論を彷彿とさせる。
 おまけに、受精後の発生初期段階では大脳などの神経系と表皮は同じ「外胚葉」に由来するなどと言われてしまったら、「皮膚が心に影響を与える」可能性を信じざるを得なくなってしまう。
 三〇年以上もの間、乾癬という皮膚疾患に悩まされ、バリア機能がボロボロのまま治療をさぼってきた私だが、本書を読んで「もっとお肌を大切にしなくては」と思ったのは言うまでもない。

[評者]鈴木裕也(ライター)

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